地下のマンション

 

 

 

プロローグ

 

3月24日(土)

毎日並んでいるホームに可愛らしい少女が母親に連れられ楽しそうに電車の来るのを待っているのが見える。その日はいつもとは反対側のホームに加藤和馬(かとう かずま)は立っていた。

 

和馬は、この春に引越しを考えていた。8年間働いている勤め先の大手家電メーカーは新宿駅から徒歩数分の場所にあり、和馬の住む池袋からは然程遠い距離ではない。都会の通勤状況を考えれば恵まれているといってもいい。しかし和馬は、この中心部から少し離れた場所に住みたかった。生まれ育った海と山に囲まれた風景が、この歳になって恋しくなっていた。

 

深夜のテレビ番組が北鎌倉を特集していたこともあり、休日の今日は家探しとチープな観光も兼ねその北鎌倉へ足を運ぶことにした。鎌倉と池袋、そして勤め先の新宿は一本の電車で結ばれていて、意外にも朝のすさまじいラッシュさえ我慢すれば1時間程度の距離である。通勤圏内でもあり、人気のある土地である。和馬は会社帰りの自分を想像しながらホームに到着した電車に乗り込んだ。土曜ということもあり、若干空席がある。普段見ることもない車内広告や、遠くで騒いでいるフシダラな格好をした高校生らを観察しながら30歳の冒険がはじまった。

つづき