4.向かい合う部屋

 

3メートルほどの階段を下り、和馬は呆然と立ち尽くした。5メートルは幅のあるコンクリートが剥き出しの廊下と、左に4つ右に3つの計7つのドアが並んでいた。どのドアもノブが取り付けられているだけのシンプルなもので、こうやって廊下の端から眺めるとそのノブだけが壁から突き出ているように見える。よく見るとドアの中心部に「A- 1 A-2・・・」と書かれている札が付けられている。左の手前がA- 1 で右はB- 1 で始まっている。昔テレビで見たアウシュビッツの収容所を思わせるような空間。

『どうしてこんな・・・。』

和馬には理解できなかった。なぜこんな場所があるのか。作らせたのはもちろん高野景子の夫であろう。しかし地上の家とはまったく異なる異様なこの空間は、いったいなんのための場所なのか。和馬は深呼吸をしてから、すぐ目の前にあるA- 1 と書かれたドアノブを握った。

 

開かない。いや、ドアノブが回転しない。ホテルなどにあるドアのように、このノブは回転をする機構をしていない。当然のように鍵穴がある。今、和馬の所有している鍵はただ一つ。玄関とこの地下世界へと続く『蓋』を開ける鍵。和馬は試みた。

 

見た目の予想以上にこのドアは重たかった。しかし開いた。

 

『ここは・・・。』

窓一つない5畳ほどの正方形な四方真っ白な部屋。

蓋のない小さな便座と、簡単なシャワー。そしてその反対側にシングルサイズよりも小さく見えるベッドが一つ。天上に小さな換気口があるだけで他には何もない。和馬は気持ちが悪くなりいつの間にか後退りをしていた。ゆっくりと閉まるドアを見つめながら、なかなか整理できない情報に頭が痛くなってきていた。地上の家の呼び鈴が聞こえてきた。注文していたベッドが届いたようだ。和馬は少しヨロメキながら地上の家に戻ってこの地下の蓋に鍵をかけた。

つづき